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虎ノ門の住宅(改装)

エントランスより見る。都心に建つマンションの約 68m2 の一室改修。 玄関扉を開けると三角形の暗闇が現れ、頂部からわずかに光が漏れる。

「消えてしまう空間」

 エントランスドアを開くと奥に向かってパースペクティブが効いた鋭角な三角形の暗闇、非日常的な空間が広がる。奥に向かってグラデーション状に闇の深さが増幅して行く。
暗闇の最深部、三角形の頂部を構成する大きな扉は重さ故、ゆっくりと開閉され、文字通り「徐々に」空間が闇から白い光へと移り変わって行く。ここでの空間体験は時間軸が組み込まれたものとなっている。扉を開き切ると暗闇の三角形は光で満たされ姿を消し、先窄まりの空間と明るいL型に折れ曲がった空間が一体化する。そこに存在していたはずの闇の空間は消えてしまい、眼前には日常の空間が広がる。
 これはマンション1室の部分改装計画である。改装対象となる専有部は長方形の平面形状で、共有部とのつながりは持たない。4年前にキッチンの改装が済んでいる状況で、クライアントの要望は部屋数を減らすことによるスペースの拡張であった。それは既存プランの壁を一部撤去するだけで過不足なく満たされることが想像された。設備配管上、水回りの位置を大きく変更することは難しく、キッチンには手を加えない。このような条件下において、設計者がプランニングに手を加えられる箇所は少なく、介入すべき箇所も無いように思われた。
 そこで、ここでは恒久的に存在する空間ではなく、アノニマスなマンションの1室に蜃気楼のように現れては消えてしまう空間をつくり出すことを考えた。記憶の中に別世界をつくるという試みである。
空間の把握のされ方は様々である。全体が一望出来ることで把握できる空間。全貌が把握出来ず、頭の中で全体を再構築することで認識するもの等。後者は見えない場所や別の部屋、そこには無い世界を想像することで、実面積よりも広がりや奥行きを生み出す。
小規模な建築においては、多くの部屋を作ることは難しく、平面計画に負うところが大きくなる。
どうしても平面によるものは、空間を固定し、そこでの活動に制約を与えてしまう。そこでの活動の自由を確保しながらも、別世界を発生させることが出来ないだろうかと考えた。
 扉を壁のようなスケールまで拡張し、空間の接続の仕方を少し変えることで、日常的な風景に非日常性を出現させた。閉じると現れ、開くと消える。確かに「そこ」に存在していた空間。それは「ひとつながりだけれども奥が見切れている空間」のように、「見えていない空間」が頭の中で像が結ばれる。朝日と共に消え、夜と共に広がる闇のように現れては消える。
そんな空間が差し込まれることで、脳内に別の世界が生まれ、目の前の限られた世界だけではない奥行きや広がりが出来たのではないかと考えている。

敷地面積:-m2
建築面積:-m2
延床面積:68.04m2
構造  :鉄筋コンクリート造
規模  :-

エントランスより見る。三角形の頂部を構成している幅約 3.3mの大扉を開くと、奥にリビングエリアが垣間見える。