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松原の住宅

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「路地と洞窟と大海原」

通りに正対した家々や塀が並ぶ住宅街で見かける更地は,道路の領域が流れ込み,開放感をもって,街と一体化している印象をもつ.建物が建ち上がってしまうと,敷地と通りは再び分断される.
このような状況の中,周囲の環境を建物に取り込み敷地内にとどまるだけではなく,そこに建物が建つことでできる環境と,敷地や建物の形状によって規定される内部を,単純な形態や幾何学的な操作によって閉じるのではなく,積極的に形づくる.その両者が同時進行に決まっていくつくり方を模索した.

建物は通りに対して,角度を振ったふたつの面を持ち,東側の壁が傾斜した形状をしている.さながら,削り出された岩のようにそそり立っている.
建物1 階中央は,2 層分の天井高さを持ち,3 方向を囲まれた,内部の領域のような「前庭」が挿入され,絞られた開口によって,通りに向って大きく口を開けた駐車スペースを通して,敷地の外とゆるやかに繋がる.
「前庭」は特定の用途や機能を持たない余白空間として,通りと建物を結ぶ緩衝領域として働き,そして内外の空間を交互にレイヤー化させ,水槽の水の中を進む光線のように,距離感を屈折させて,常にどこか見え隠れする向こう側へと視線を運んでいく.

建物には,どこかだけが特化するのではなく,路地のような場所,折曲げられた見通すことのできない洞窟のような場所,天井が高く細長い分節のない不均質なワンルーム,遠くに高層ビル群が見えるルーフスケープに浮かぶ甲板のような場所と,キャラクターの異なる4 つの層を与えた.同時に外形は,角度をもってセットバックすることで,通りに働きかけるふたつの小さな場所をつくり出す.
傾斜した壁と歪んだ平面が,パースペクティブを歪ませ,空間を正確に把握されることを拒否するかのように働く.それが空間認知に対してゆらぎを与え,水平性・垂直性を伸縮させ,身を置いている場所によって,空間の感じ方を変化させる.

特性の異なる場所が隣り合って連続・積層することで,物理的かつ心理的な距離感を生み,それぞれの場所の前後の空間体験の記憶の落差が,有限な空間の枠を押し広げている.         

所在地 :東京都世田谷区
主体構造:木造(ベタ基礎)
規模  :地上3階
敷地面積:70.00m2
建築面積:39.84m2